【男3女3・100分】松井周『自慢の息子』

〜100分

松井周『自慢の息子』の上演時間・人数

第55回岸田國士戯曲賞受賞

男 3 女 3 上演時間 約100分

あらすじ


40歳を超えて定職につかない独身の男「正」(日髙啓介)がアパートの一室に独立国を作る。そのアパートの家賃は年老いた母親(片桐はいり)の年金生活で賄われている。「ガイド」と呼ばれる男(伊藤キム)に導かれ、日本からの亡命を試みる兄妹(横田僚平、野津あおい)と「正」の母親が、その独立国を訪ねる。アパートの隣の部屋には、騒音に近い音楽を聴きながら洗濯物を干す女(稲継美保)が住む。彼らは自らの領土を主張しながら、奇妙な同居生活を始める・・・「私」という領土は一体どこに存在しているのか? あるいは その境界は?「国」と「私」についての考察劇。

サンプル『自慢の息子』Sample “Un Fils Formidable” — TOPより引用

松井周『自慢の息子』の台本入手方法

松井周さんの台本「自慢の息子」は、白水社より出版されているため購入することができます。

評価など(抜粋)

岩松了の選評

ここに描かれているのは、単に、ひきこもりの息子とその母親との関係ではない。独自の手法は文字通り演劇的で、演劇なればこそ果たしうる作業を為した作品だ。
劇の冒頭、母が"男"に告白する──亡き夫に「お前は要領を得ない喋り方をするから、うんうん頷いてればいいんだ」と万歩計を渡され、それを頭につけて頷きつづけ、人生に目標ができたと。その男は、いかがわしい商売をしながら、息子の作ったという国へ行くガイドをするのだが、そのいかがわしさが、いや実はこの男こそその亡き夫ではないのかという不穏なものを感じさせながら、劇は進む。そして実際、旅の途中に結婚することになるという展開は、繰り返される"人の愚行"を、そっけない事実として提示している。それにとどまらず、登場する人物が、例えば隣の女はホントに隣の女なのか、母のあの頃ではないのか、また良き人であるかの母と息子が実は犯罪にふちどられた二人であるのではないか、という風に、読む側(観る側)の懐疑心を刺激する力がある。
 第55回岸田國士戯曲賞選評(2011年) – 白水社

鴻上尚史の選評

『自慢の息子』に関しては、ラストがじつに曖昧で納得できない。どうも、物語の終わらせ方が思わせぶりのわりには、じつは仕掛けとして完成してないのではないのかと思わせられる。

第55回岸田國士戯曲賞選評(2011年) – 白水社

永井愛の選評

『自慢の息子』(松井周)は、「わかる人だけわかってくれればいい」という信念に基づいて書かれたものだろう。その姿勢は立派だ。だが、それゆえに生じる緩みもある。引きこもってしまった者が、自分の部屋ではどこまでも自由でいられるように。
自分を理解しないであろう他者に向かって、その共感を得ようと格闘してこそ、何を残し、何を捨て去らねばならないかが初めてわかり、私はこのような劇作家だと自分をさらす決意がつくのではないだろうか。多くはそこで足がすくみ、無惨な妥協の産物を見せてしまう。だが、たまには勝利を得る。それは保障された自由ではなく、闘い取った自由だ。松井さんの作品に気ままな緩みを感じてしまうのは、そこに闘い取った自由を見出しにくかったからだと思う。

野田秀樹の選評

 松井氏は、すでに彼独特の作品の文体を獲得している作家で、いつもそこから自閉的な世界が見えてくる。今回は特に顕著で、「正の国」という自慢の息子の自閉の国を作り上げることで、「引きこもり」の世界を見せてくれた。マスターベーションを手伝おうとする母に見られるような、近親相姦的な母と息子の関係は、見事に現在を投影している。

 

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